沈まない月

無印ウルの独白。対話のようで、実際は独り言のような話。

 

 

 

ふかくふかく安らぎの中へ そこはしあわせで 何も怖くなんてない

父さんがいてくれるのだから

ぼくは畑を耕して 父さんの手伝いをするんだ
そしていつか 父さんみたいなおとこになるんだ

 

 

 

その世界は暗く湿って、滅び行く場所だったが、彼は楽しそうに鍬を振るっていた。虫の声も、ざわめく草の音もなく、変化のない土を掘り起こしていく音だけがその場に響いていた。

「とうさん」

彼は後ろにいる男にそう呼びかける。

「これで大丈夫?たくさんの食べ物、育てられるかな」

男は彼と同じほどの身の丈であった。深緑のコートを身にまとい、白い狐の面をかぶっていた。

「馬ー鹿かおまえは。もっと深くだよ!テメェが出てこられなくなるくらいになあ!!」

そこにあるのは耕された畑ではなく、浅く掘られた墓穴であった。男は苛立ちを表すかのように地面を蹴りつけた。舞い上げられた土は彼の方へと飛び散る。

「いつまでちんたらやっているんだよ。さっさと堀りあげろよなァ?」

侮蔑をあらわにした声で、彼へと指示を下す。

「うん、とうさん。わかったよ。」

しかし彼は男に対して腹を立てずに笑うと、また作業に没頭し始める。その仕草は、見た目よりも幾分も幼く、 己に対する男の態度を気にするどころか、男へと絶大の信用を寄せているようだった。

彼は父親の仕事を手伝っているのだ。何よりの誇りであり、目標でもある父。いつかは父のように強くなって、大切な人を守りたい。幼い頃からずっと思っていた夢だった。

そう、それは夢だったのだ。ここは呪われた世界で、男は父などではなかった。あの日上海で押さえ込もうとした、あまりにも大きな御霊。彼は心のどこかで、己の中にある恐れや弱さを認めることができなかった故、彼の精神は耐えられなかったのだ。その隙を見逃す事などなく、四仮面はそれを捉えた。彼を知る者の誰よりも遠く邪魔されないような場所で、彼の魂を奪っていく。だが、今この状況で、彼は幸せなのかもしれない。まやかしでも、失ったものが、幸せであった瞬間がそこには在った。だから彼の心はその瞬間にあわせた。だから彼は喜んで墓穴を掘っていた。

「…しかし何故だ?なかなか穴が掘り進まねェ…」

男は呟く。本来ならば既に十分に穴は深くなっているはずだからだ。 ここの大地は彼という存在を作り上げている記憶、感情、思い出、魂を覆うもので作られている。それを掘り進め、より魂を純粋なカタチで奪う。壊れた心ならばいとも容易くそれは終わるはずなのだ。

 

彼は掘り進めながら、ひとつだけ気になることがあった。ふとした瞬間に浮かぶ女性の姿。見たことの人だというのに、それは酷く胸を締め付ける思いにさせるのだ。彼女は泣いていた。まっすぐこちらを見つめながら、その瞳から大粒の涙をこぼして。しかしそれだけではなく、微笑んでもいた、横顔も、自分に話しかけているような姿もあった。何度も何度も浮かんでくるというのに、彼女の事が何も分からず、そして、心にその思いを残して、すぐに消えてしまうのだ。

(誰なのだろう…綺麗なひと…銀の髪の異国のひと)

彼は穴を掘り続ける。自らの墓穴を掘り続ける。緩やかではあるが、それは確実に深さを増していく。そんな彼らを照らす月は沈まず、しかし地面に伸びる影はひとつのみで、その世界の狂いを示しているようだった。

 

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長い文章を目指したけれど結局いつもと変わらなかったよという一品。
あとあえて固有名詞を使わないようにしてみました。彼はウル、男はキツネ面です
やっぱり捏造(汗)こういうネタすきなんです…げふう…絵日記に載せたのはこれの一部です。といってもうまくかみ合わないので少し変えてしまいましたが。トホホ…